『アイルの書』

  • 第1巻『白い鹿』
  • 第2巻『銀の陽』
  • 第3巻『闇の月』
  • 第4巻『黒い獣』
  • 第5巻『金の鳥』


タニス・リーの初期作品群、パトリシア・A・マキリップの『イルスの竪琴』とともに、私の創作の原点となっているのが、このナンシー・スプリンガーの『アイルの書』全5巻です。


ケルト神話を基調にした、神秘と魔法の気配に満ちた美しい世界観。
と同時に、魅力あるキャラクターたちに夢中になりました。


ファンタジー小説の中には、世界観やストーリーで読ませる素晴らしい作品が数々ありますが、そういう作品って、ちょっと独特過ぎてキャラの感情や行動に共感できないことも、時々あります。


その点、この『アイルの書』では、主人公たちの苦悩や愛や友情が細やかに生き生きと描かれ、とても魅力的。彼らが苦労や冒険の果てに幸せになれるのか、そのハラハラドキドキ感も、物語に引き込まれる要因となっています。


5巻はそれぞれ独立した話となっていて、世代が違ったり、場所が違ったり。1冊だけ読んでも充分に楽しめます。


私のお気に入りは、やはり第2巻『銀の陽』。
主人公の2人、ハルとアランの友情がいい!
5巻の中で1番長い物語となっていますが、ストーリーの完成度としてもピカイチだと思います。


第1巻『白い鹿』のクインも捨てがたい。彼の忍耐深い愛には胸を打たれます。
ちなみにクインはアランの先祖だったはず……記憶があやふや(^^;)


クインもアランも、立場的には主人公の次、ナンバー2という扱い。
特殊な力とカリスマ性を持ち、『王』となるべく運命づけられた主人公に、永遠の友情と忠誠を捧げ、彼を助けて活躍します。


そして一種特別な思いがあるのが、第4巻『黒い獣』。
好きかと聞かれると「?」となってしまうけど、気になって仕方ないキャラクターがいます。
それが主人公フレインの兄、ティレルです。


呪われた血によって自身の内に闇と狂気を秘め、しかし誰よりも美しく大胆で、弟には優しいティレル
愛する者を奪われた悲しみと憤怒のため、冷たく無慈悲な復讐鬼と化した兄を、けなげにも敬愛し続けるフレイン。
この巻は全体的にダークムードで、終わり方も完全にハッピーエンドではありません。
にもかかわらず惹き付けられるのは、やはり私にとってティレルというキャラが魅力的だから、と思えます。


そうです、白状しましょう(^^;)
私が『薄明宮の奪還』を書くきっかけとなったのは、実はこの「ティレル」を自分なりに好きなように描いてみたい、そして幸せにしてあげたい、という思いが原動力なのです。
というわけで『薄明宮の奪還』の主人公ギメリックの、外見と性格の一部、そしてティレルという名前そのものを別のキャラの名前として、『黒い獣』のティレルから拝借させていただいております(^^;)
言わば『薄明宮の奪還』のギメリックとティレルは、『黒い獣』のティレルの分身と言えるのです。
あと、この作品からは他にもキャラの名前を拝借しております……(名前考えるの、苦手なんです(_ _;))


そんなこんなで私にとっては非常に思い入れ深い作品なのですが、残念ながら現在は絶版になっているようです。
表紙絵は中山星香さん。漫画っぽさが受け入れ難い人もいると思いますが、私は好きです。
この方の描く人物は美しいけどワンパターンで、漫画家さんとしてはあまり上手でない(^^;)なので挿絵はなくて正解だと思います。。。
でも何と言ってもファンタジーという言葉さえ一般的でなかった時代に、めくるめく魔法と神秘、耽美の世界を味わわせて下さったこの方の功績は大きい。表紙絵は世界観を表せるよう頑張って描いておられると思います。


白い鹿 (ハヤカワ文庫 FT―アイルの書 (68))

白い鹿 (ハヤカワ文庫 FT―アイルの書 (68))

銀の陽 (ハヤカワ文庫 FT―アイルの書 (70))

銀の陽 (ハヤカワ文庫 FT―アイルの書 (70))

闇の月 (ハヤカワ文庫 FT―アイルの書 (71))

闇の月 (ハヤカワ文庫 FT―アイルの書 (71))

黒い獣 (ハヤカワ文庫 FT―アイルの書 (75))

黒い獣 (ハヤカワ文庫 FT―アイルの書 (75))

金の鳥 (ハヤカワ文庫 FT―アイルの書 (76))

金の鳥 (ハヤカワ文庫 FT―アイルの書 (76))